花火
そっと春香に触れ、時間をかけて忍ばせて行く。そして更にゆっくりと、まどろみに溶け込む様に優しく体を重ね合わせた。春香の鼓動が聞こえた。肌と肌の触れ合う全てから、その音が伝わってきた。自分のそれと微妙に違うタイミングで波打ち、まるで二つの心臓を手に入れた様だった。
オルガニズムのないセックス。その行為をセックスと呼ぶのかは、分からない。だがそこには、それを求めないからこその、真の人間らしいセックスの意味があったのかもしれない。幸せだった。愛する人と一つでいられることが。そう思うと、もう止めることは出来なかった。その華奢な体を抱きしめ、次から次へと流れ出る涙を、堪え切れない嗚咽を。
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