花火
「よく聞くセリフだが、息子が出来たみたいだよ」
飲み物はビールから焼酎に変わり、少し肌寒くなってきたからか、お湯割りでそれを楽しんでいた。
「拓哉君には本当に感謝しないとだな。最近のあの子を見ていると、本当にいきいきとしている。一ヶ月前とは、比べ物にならない程に」
一ヶ月前の春香の様子は分からなかった。だが、きっとこの袖ヶ浦の実家で再開した時の様に、鋭く、何人も受け入れない様な眼差しをしていたのだろう。
「何にもしてないですよ。何もしてあげられてないですよ。僕はただ、自分のしたい様にしているだけですから」
春香のために出来ることがあるなら、その病魔と繋がれた鎖を断ち切ってやる。でもそれは出来ない。ならば、何も出来ないのと一緒だった。
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