花火
「それがあの子に元気を与えてくれているんですよ。何もしてあげられないなんて言ったら、私達はもっと何もしてあげられなかった」
一瞬の沈黙が流れた。誰もが次の言葉を探していた。
「拓哉さん、あなたは今のままでいて下さい。それがあの子にとって、一番喜ばしいことなんですから」
わかりました。そう言って、グラスに残った焼酎のお湯割りを飲みほした。時はすでに十二時を回ろうとしていた。昨夜あまり眠っていなかったこともあり、体は眠りを強く求めていた。
「そろそろ休ませていただきます」
そう告げ、春香の眠る二階へと向かった。
ベッドの中で眠る春香の手を握りしめ、その手に注がれてきた愛情を思った。そして今も注がれ続ける愛を。
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