花火
店をでて階段を下りる時、軽く酔ったのか少しふら付く春香を見て、静かにその右手を握った。その手は小さく、少し汗ばんでいた。いや、汗ばんでいたのは春香の手ではなかったかもしれない。その手は切符を買い、改札を抜ける時以外に離されることはなかった。一度離れた手も、どちらからともなく再び繋がれていた。お互い緊張しているのか口数は減ったが、気まずさはなかった。この時間がもっと長く続けばという願いも虚しく、二人を乗せたモノレールは終点の新橋駅に着いてしまった。
「ごめんね、すっかり遅くなっちゃって。もう少し送って行こうか?」
決して下心があった訳ではない。単純にもっと一緒にいたかった。
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