神威異伝
『走れ、走るんだ…っ』
再び、十夜の頭の中に声が響いた。
その声は―…
「俺の、声……?」
その時、十夜は理解した。
今、自分が見ているのは…記憶を失う前の自分の記憶だと。
『逃げるんだ…早く、早く』
時折、自分の頭に響く声は昔の自分の声…らしい。
息を切らしても、枝で何回も何回も腕や足の皮膚を裂いても…昔の自分は足を止めない。
時々十夜の視界に映る昔の自分は…右手で拳を握り、左手には漆梁を強く握っていた。
『あいつに追いつかれる前に、もっと遠くに…!!』
「……“あいつ”?」
昔の自分の言葉に、十夜は首を傾げた。
記憶を失っている十夜には、昔の自分が言う“あいつ”が誰なのか…全く分からなかった。