神威異伝
「見えない…?」
昔の自分を追って来た人物は…男なのだろうが口元までしか、はっきりと見えず口元から上は……まるで霞(かすみ)がかかったようにぼやけて見えない。
…男の体や顔には、返り血で濡れていた。
昔の自分は、ただ男を睨み続けた。
(くくく…憎いですか?あなたの仲間を殺した、私が)
「な、かま…?」
(…………。)
十夜は昔、自分には仲間がいた事に驚きを隠せなかった。
…その仲間が、目の前の男に殺された事も。
昔の自分は何も言わず、更に強く男を睨んだ。
漆梁に右手を添え、抜刀の構えに入る。
冷たい声で小さく笑い、男が口を開いた。
(安心してください。…あなたも、ちゃんと彼らの所に送ってあげますから)