神威異伝



右手を踏みにじりながら、男が言った。


(いい加減諦めて、命ごいでもしたらどうだ?)
(ぐ……っ誰が、するかよ…っ)


右手の痛みに耐えながら、昔の自分がはっきりと答えた。

その言葉を鼻で笑い、男が呟く。


(ふん、つまらん奴だ。……まぁ、命ごいなどしても助けてやろうとは思わないがな)
(………。)


男を睨みつけ、昔の自分は歯を食いしばった。


『やべぇ……手に、力が入らねぇ』


踏みにじられている右手は、血が滲み感覚すら無くなりかけていた。

不意に、男が足の動きを止めた。



< 121 / 237 >

この作品をシェア

pagetop