神威異伝




『京を保護してから数日後、山の中で白山村の男達が京を探しているのを見た。その者達に京を預けるべきだと、渡すべきだと分かっていたのに……私は、迷ってしまった』


少し間を空けて、澪は口を開く。



『惹かれていたのだ、私は。……人間の娘である彼女に、気がついたら、惹かれていた…。だが、私は人間の言葉を話せても、人間の姿になれても……所詮は獣。このままで良い訳がない。…私は京に見せた、隠していたこの姿を』


再び澪は煙に包まれ、それが晴れると狼の姿になっていた。


『この姿を見せれば私から離れていくと、この姿を恐れ逃げていく。……そうすれば、白山村の者達に保護されると、そう思っていた…』


澪が振り返る。


『だが、京は逃げなかった。この姿の私を見て「やっと、見せてくれたね」と笑った。……京は知っていたのだ、私が黒狼だという事を。それを知っていながら何も言わず、私に合わせてくれていたのだ』

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