神威異伝



『この山を抜けた先にある、白野村にも連れて行ったが……治療方すら分からなかった。私はどうする事も出来なかった。「あなたの側にいたい」と言った……その京の願いをただ、叶える事しか…私には』



雫が落ちた。

ポタポタと、澪の瞳から涙が溢れ落ちる。


『……白野村に連れて行って三日後の朝……京は、もう二度…目を、覚まさなかった』


日向はきつく目を閉じ、理緒はうつ向き、十夜は――……



「…辛かっ、た…よな。暁も……あんたも」


澪以上に涙を流しながら、十夜はそれを拭う事もせず呟いた。

煙に身を包み、人間の姿になった澪が涙を拭った。


『確かに、辛かった。心に…ぽっかりと穴が空いた様な気持ちが拭い切れなかった。……だが、私がそんな姿を見せれば暁が悲しむ…』


そう呟き、澪が立ち上がった。

十夜が澪を見つめると、澪は小さく微笑んだ。


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