神威異伝
『……分かった。この事は黙っていよう』
そう呟き、澪は手を下ろす。
「ありがとう……澪」
一言だけだが、礼を言って十夜は頭を上げた。
『だかな、十夜』
十夜の目を見て、澪は断言した。
『お前がいくら必死になって、この事を隠そうと……いずれは知られる。絶対にだ』
「……そう、だな」
小さく笑い、十夜が澪の横を通り抜け家に入る直前……振り向く事なく澪に言った。
「だったら隠せる時まで隠すさ。……俺は往生際が悪ぃから、な」
十夜は澪の言葉を待たず、家に入った。
広間では、十夜が家を出た時と変わらず仲間が寝息をたてている。
二人の間にぽつんと置いてある自分の寝袋に座り、小さく溜め息を吐く。
自分の左腕を少しの間見つめ、寝袋に入り十夜は目を瞑った。
そんなに時間がたたない内に、十夜は再び眠りに落ちていった。
……その日、十夜が記憶の夢を見る事はなかった。