神威異伝
「…………俺」
十夜が日向に尋ねる。
「兄ちゃんなんていたのか?」
「おいおい、俺に聞くなよ」
困った様に笑いながら、日向が言った。
小さく溜め息を吐き、十夜が料理に手をのばす。
「まぁ、思い出す時に思い出す――……」
素手で料理を摘もうとした十夜の手を、背後から誰が筆で叩いた。
「いってぇ!!」
「行儀が悪いわよ、馬鹿十夜」
十夜が振り返ると、理緒と暁が後ろに立っていた。
理緒の手には、先程使われた筆がしっかりと握られている。
「おかえり、吹雪はちゃんと持って行ってくれたか?」
日向がちゃぶ台の前に座りながら聞くと、暁が笑顔で応えた。
「すごいんだよ!!吹雪ね、理緒ねーちゃんの言う事ちゃーんと聞いてたんだよっ」
「吹雪からしたら、理緒が母親みたいなもんだからな」
理緒と暁が座ったのを見て、澪も腰を下ろす。
『……朝飯を食べる前に、皆に頼みたい事があるのだ』