神威異伝
「記憶が無い…って言っても、全部忘れた訳じゃないんだ。今の俺からしたら知らない場所とか、知らない人の事…頭ん中にはある。でも、それが何なのか誰なのか…分からない」
一呼吸を置き、十夜は続けた。
「あの刀…漆梁の事もそうなんだ。知らない森の中で、知らない人から貰って…。そん時の俺、凄く嬉しかったんだと思う」
思い出すだけで、なんか嬉しくなるんだ…と十夜が微笑んだ。
十夜の話を、黙って聞いていた賢雄が口を開いた。
「つまり…お主の中には記憶の断片が残っておる、という訳じゃな」
「…まぁ、そういう事だな。悪いな大爺、記憶戻ったんじゃないかって期待させといてよ」