こわれた眼鏡とインテリ眼鏡
ピントの合わない世界
早夜子(さよこ)はクラスであまり目立たない人だった。

もともとは明るい性格なのだが、人見知りをする性格がじゃましてどうしても静かそうな印象を与えてしまう。

何年も使い続けて、もうすでにほとんど度が合わなくなったこわれかけた眼鏡がそれを引き立たせている。

早夜子の視力は相当悪かった。どれくらい悪いかというと、眼鏡をかけていても黒板の文字が見えにくいほどだ。

裸眼だと日常生活が困難になってしまいとてもじゃないが眼鏡なしでは生活できない。
と言っても、今はその眼鏡があっても困難になりつつあるのだが。

そんな眼鏡をかけているせいなのか、早夜子の周りに見える世界はいつの間にかピントの合わない、ぼやけた世界が広がっていた。



とある日のHRで、担任の先生が少し小さめの紙の束を持って教室に入ってきた。
先生はだまってそれを配る。よく見るとそれは進路希望票だった。

「えー今からこの進路希望票を書いてもらう。今はまだ少し時間があるから、大体の進路を書いてくれればいい。まだ進路が決まってない人も、大体で構わないので必ず一つは書くように。」

早夜子は今、高校三年生に進級したばかりだった。早夜子の場合、大学に進学するのか、就職するのかすら決まっていなかった。

というか、その事すら忘れてしまっていた。自分の進路の事など、考えた事がなかった。
自分のやりたい事も分からないまま、どうしたいのかすら分からないまま、いつまでもピントの合わない世界をさまよっていた。
今通っている学校だって、何も考えずにただなんとなく決めてしまった。

そんな早夜子に、今ここでそれを書く事ができるのだろうか。

――いや、絶対にできない。今ここでまた何も考えずにただなんとなく決めてしまえば、きっと同じようなことをくり返すことになるに違いない。
しかし早夜子は、いつか必ずそんな世界から抜け出したいと思っていた。

いつかはピントの合った世界をこの目で見てみたいと。


どうやら周りのクラスメート達はほぼ書き終わったらしい。
それに気付いた早夜子は、少し真剣に考えてみることにした。

しかし時間が足りず、結局姉が通っている女子大を走り書きして提出してしまった。
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