こわれた眼鏡とインテリ眼鏡
今まで気付かなかったが、よく見るとそこは眼鏡がたくさん置いてあった。
どうやらここは眼鏡店らしい。眼鏡店といっても、小さな美術館のような雰囲気だった。

気になったので早夜子はガラスケースに入れられている眼鏡をじっと見つめていた。

さらによく見てみると、この店に置いてある眼鏡はすべて一点ものだった。
眼鏡店にしては珍しいな、と早夜子は思った。

「これ、全部一点ものですね。」

なぜ一点ものだけしか置いていないのか気になったので、それとなく聞いてみた。

「ええ、これ全部私のコレクションなの。」

「えっ?!」

「そんな大事なものを売ってしまっていいんですか?」

早夜子は思わず言葉が出てきてしまった。

「ふふ…そのかわり、厳しいチェックが入るけど。人としてのチェックがね。」

「人として…?」

「そう。この人なら大切に使ってくれる、そう思わせる人にしか売っていないわ。だって、大事なコレクションをそう易々と手放せないもの。」

おネエ口調な男性はやさしく笑う。

「確かに…そうですよね…。でもどうして売ろうなんて…。」

「それはね…私の他に似合う人がいるんじゃないかって思ったから。それに、使わないでしまっておくより誰かに使ってもらったほうが眼鏡も喜ぶでしょう。」

おネエ口調な男性はその時とても幸せそうな顔をしていた。

「人ってね、眼鏡ひとつで雰囲気がひとまわりもふたまわりも変わってしまうものなのよ。少なくともあたしはそう思うわね。」

早夜子は少しどきっとした。本当に変わるものなのかな、と密かに思っていた。

「はい!できあがり!!あとはウチで洗っておくわね。あ、今日はその服貸してあげるから。」

ブラウスのしみはほとんど分からない程度に薄くなっていた。

「ありがとうございます…。でも…。」

「大丈夫。家まで送るから。」

「そんな!悪いです…そこまでしてもらうなんて…。」

「…そんなブカブカの服着て街を歩けるの?」

おネエ口調な男性は、少し意地悪そうな笑みをうっすらと浮かべながら聞く。

「それは…」

早夜子はどう返したらいいか困ってしまった。
確かにブカブカのカッターシャツを着て街を歩くのは恥ずかしい。
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