私の生きる道
彼女が病室に着くとそこには私の両親がいた。

しかし、私は両親の事ですら覚えていなかった。

両親の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

彼女が病室に入ると私の両親は深く一礼して部屋をあとにした。

彼女は無言で買ってきた花を花瓶にさした。

そして、深い沈黙が続いた。

しばらくして重い口を開いたのは私だった。

『医者からすべてを聞きました。さっきいたのは私の両親であること。そしてあなたは私の彼女であるということ………。』

『私が記憶喪失であることを………。』

彼女は溢れ出す涙を抑えることができなかった。

そして私は続けた。

『私はあなたの記憶がいっさいありません。あなたの名前も記憶にありません………。そして私は一晩考えあることを思いました………。』

『別れましょう。』

私がこの言葉を口にした時、彼女は凍りついた。

そう彼女は彼と共にまた一からスタートする事を考えていたからである。

そして彼はまた続けた。

『これから一緒にいてもあなたは苦労するばかりです。私が記憶を取り戻す保証などどこにもない。もし記憶を取り戻すにしても何十年とかかるかもしれない。そうなってしまってはあなたのたった一回の人生を棒にふってしまう。そうなってしまったら私はどうすればいいのか………。』

彼女はついに重い口を開いた。

『私はあなたが記憶を取り戻さなくてもいいと思っています。記憶が戻らなければあなたがもう一度私を愛せるような女になってみせます!たった一回の人生あなた無しでは生きてゆくことは出来ません………。』

私はあかの他人にこんな事を言われ驚いた。

しかし、私の目からは涙がこぼれた。

私は何が何だか分からなくなった。

もしかすると心の奥底で彼女の事が忘れられないでいたのかもしれない………。


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