10年目の告白~愛バージョン
旅めいた電車の窓に
映る景色はいつもなら流れていくだけに過ぎないのに
私はシーサイドラインに乗り込むと

まず携帯電話を取出し
海の風景を写真に撮った。


今日だけは彼を待たせる事のない様に
待ち合わせ時間には充分な少し早めの電車を乗り継いできた。

輝く海は間近で

待ち合わせ時間には
間に合う様に来たのよ、と知らしめたい気持ちが強く

私は、すぐさま写真を添付したメールを作成し始めた。


シーサイドラインの車内も平日の昼下がり。
私の飛び乗った車両は
改札から一番近い、
海を眺めていられるホーム寄りの席で
私以外には誰も乗っていない。

なんだか私を運ぶためだけに運行している気さえした。

彼は驚くだろう。
待ち合わせ時間を守ったことのない私に。

八景島の改札には
彼より早く到着した私が立っている。
そう思い描いただけで
嬉しくて
落ち着くまでに
座る場所を変えたりもした。
さて、メール送信だ~と思った矢先、
「ふぅ~間に合った~!これ乗り遅れたらかなり遅刻だよな~。走ったよ」

驚いた。

少しだけときめいた。



ドサッと体をシートに預けた彼からは

香水の香がしたからだ。

そして、その香は
私の気持ちを包んでしまった。

“間に合っちゃったのかよ”
私の思い描いた
八景島駅での一瞬は

一瞬にして消された。

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