木蓮の涙
「なぁ藤
 お前人間を
 愛した事があるか」

「貴方様にお使えした
 その日から

 私の役目は貴方様を
 立派な当主にする事
 
 恋などにかまけてる
 暇などありません」

「相変わらず
 藤は固いよな
 そんなんで
 疲れないか」

畳の上に大の字に寝そべりながら
大きくあくびをした

「貴方様のその様なお姿を
 目にする方がよっぽど疲れます」

そう言って燈夜を睨みつけたが
その視線をサラッと流し
さらに話始めた

「いずれ俺の嫁に
 なる女は人間だ

 しかもその女と
 出会うのは100年後

 気が遠くなるような
 話だよな・・・

 何で俺の嫁は
 そいつじゃなきゃ
 いけないんだ」

何時になく真剣な眼差しに藤は
少し心配になった

「燈夜様
 何かお悩み事でも
 おありになるのですか?」

「―――俺
 何時まで―――童貞
 でいなきゃいけないんだ」

藤はガックリと肩を落とした
久しぶりに真剣な顔をしていると
思って心配した自分が惨めになった

小言の一つでも言ってやろうと

燈夜を見るとその顔は笑っては
いなかった


「どうして人間を花嫁
 として迎えるのか
 私にも分かりません
 しかし全ては運命
 
 いずれその答えが
 分かる時が来ましょう」
 

「そうだな・・
 どんな女か早く
 会ってみたいもんだな」

そう言って

燈夜は切なげに笑った



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