木蓮の涙
燈夜を抱きしめながら藤は思っていた

自分の感情をコントロールできず
感情のままに泣き叫ぶ燈夜を見たのは
いつ振りだろうか・・・


「貴方は早く大人になりすぎた
 我々は感情のある生き物
 時には胸の中につかえている物を
 吐き出す事も必要でしょう」


初めてこの方に会った時、私は驚いた
自分よりも10歳も下だと言うのに
子供っぽさの欠片もなかった

感情が表情に出る事が全くなく
気を緩める事があるのかと
見ているこっちの方が
息が詰まりそうになった

いや、もしかするとそんな
無駄な感情など初めから
持ち合わせていないのかも
知れないとさえ思った


しかしそんなある日、部屋の窓から
臣下の子供達が庭で戯れる姿を
微笑みながら眺めていた

その時初めて私は燈夜様が
笑っている姿を見た


「燈夜様もご一緒に
 遊ばれてはいかがですか?」


急に呼ばれて驚いた表情をしながらも
その顔は見る見る輝いていく

「私も蹴鞠をしてもいいのか?
 今までは臣下と同等の立場で
 戯れる事など許す物は
 居なかったぞ・・・
 
 それに口の煩いじじぃーなんかに
 見つかればお前が叱りを受ける

 私はもう自分の近くにいる者が
 傷つけられるのは見たくない」

そう言って庭で遊ぶ子供たちを見て
悲しそうに笑った…



あっ・・・そうか・・そうだったのか・・






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