この窓のむこうに
第1話
#00 おわりが始まる日
いつもみたいに携帯を開く。
いつもどおり、待ち受けは実家にいるダックスのケンタで、相変わらずバカっぽい、だけど可愛い顔でこっちを見上げている。
しばらくケンタの顔を眺めて、それから慣れた動作でブックマークを開く。いつも一番上、きまった場所にあるそのサイト。
『ケイタイSNS【モバ☆フレ】』
夜中だけど、運よくサイトには一発でつながった。かんたんログイン設定してあるからパスワードを打ち込む必要もない。
最初に表示されるマイページには赤い文字で新着メッセージや、日記へのコメントを知らせる文字。
その下にはフレリストにいる友達の最新日記。
他愛もない学校生活の話。
街で見かけた変な人。
学校の先生に言われたイヤミ。
好きな人が今日何してたか。
ほんとにくだらなくて、どうでもいいことで、だけどとても大切な思い出になる言葉たち。
特に親しい友達の日記だけ目を通して、フレリストに移動する。
リア友の子、
会ったことのない人、
コメでもメッセージでも絡んでない人、
メールでよく話す人、
実際に会って遊ぶ人。
数だけ増えたフレリスト。
それでも。
あの人の名前は一発で見つけられる。
ケン
ケンちゃんのページに飛ぼうとして、だけどボタンを押す指が止まる。
フレリストに乗ってる名前の下には、その人がログインしてからどれくらい経ったのか書いてあるから。
1時間以内の人、
3分以内の人、
半日前の人。
…3日以上の、あなた。
ねえ、ケンちゃん。
もう半年も経っちゃったね。
ねえ、ケンちゃん。
私たち、もう
会えないのかな…。