薔薇の欠片
額に唇に手の甲に
洋館に帰った僕を待っていたのは、
何年生きているのかも分からない女吸血鬼だった。
「また女?」
ソファーに腰掛けて海(カイ)は言った。
吸血鬼には珍しく、
黒髪のボブに赤色の瞳が特徴的だった。
僕は彼女に見つけてもらったし、
この洋館だって彼女に譲ってもらった。
だから煙たがることはできない。
「違う街に住みついたんじゃなかったのか?」
海はあら、と言って赤い瞳で僕を見る。
「いいじゃない、ここはもともと私の物だったし。それに……」
口元に笑みを浮かべて言った。
「今回の女に、大分てこずっているようじゃない」
僕は何も答えない。
昔から知られているから、
否定することもできない。