薔薇の欠片
夕食を終えると、自分の部屋に戻りベッドのそばにある窓を開けた。
少だけ、期待していた。
この窓から玲さんが私を連れ出してくれるんじゃないか、と。
だけど、
そんな話は夢のまた夢なのかもしれない。
夏の夜の風が、窓の前にある大きな樹を揺らす。
夜に吹く風は少し肌寒い。
夏だからといって、夜風は冷たい。
私は期待を諦め、窓に手をかけて閉めようとした。
だが、
その瞬間に聞こえてきた声が私の手を止めた。
「憂さん」
空耳かと、思ってしまった。
彼のことを考えすぎて、耳が狂ってしまったのかと思った。
私は辺りをきょろきょろと見回して、声の主を探す。
「ここですよ」