薔薇の欠片
僕は声の方へ気だるげに向く。
そこにいたのは、
彼女と婚約するはずの男だった。
「……何の用だ」
「何故、彼女を返した」
その男は吸血鬼の僕にも恐れてはいなかった。
以前、
僕が彼女を屋敷から連れさらうときに邪魔した男。
彼女を手放す……訳……?
「面倒だったから、と言ったら?」
「……」
「僕を殺すかい?」
「彼女をさらったとき、お前嬉しそうだった。
始めは獲物を捕まえられて
満足したからだろうと思った」
だけど、と男は言う。
「嬉しさに紛れてそのときは気付かなかったが、
お前、苦しそうだった」
男の言葉が、痛い。
「それは、愛だろう?」