薔薇の欠片
考えたくなかった。
あの男じゃなく、
僕が隣にいたいと思った。
「……玲」
コツリ、と靴の音を響かせて声の主は僕に近づく。
僕は流れ出る雫を堪えようと必死だった。
だけど、そうすればするほど、止まらなくなる。
「狩れなかったのでしょう、彼女を」
「……」
「なのに、どうして泣くの?」
「……海」
涙が滲んで海がどういう表情をしているのかはわからない。
「何故、吸血鬼なのに涙を流せるの?」
そう呟く海の言葉に思わず、訊いた。
「……どういうことだ?」
「吸血鬼に涙を流す機能なんて無いわ」
あの子も、と言って彼女は視線を下げる。
「呂依(ロイ)も、
涙を流すことは無かった」