薔薇の欠片
「1ヵ月後の憂(ウイ)の誕生日に婚約かあ……。幸せ者だなあー、憂」
私の家に遊びに来ていた百合(ユリ)がうらやましい、と言わんばかりに私を見つめる。
「あの性格も良くて、顔も良い高藤(タカトウ)さんとだし、幸せじゃないわけがないよね」
「……うん」
私は無理矢理に頷く。
百合が言うとおり、来月の私の誕生日に私は親に決められた相手と婚約する。
もちろん、高藤さんは悪い人じゃない。
だけど、何かが違う。
ずっと親のいいなりでまるで私操り人形みたい。
なんて、時々思う。
一通り百合と話し終えると、たまたま目に入った時計を見て立ち上がる。
「もうこんな時間。ちょっと出かけなきゃ」
カーペットに座り込んでいた百合は私を見上げる。
「出かけるって、どこにいくの?」
「新しい香水が街の店で売られるみたいだから、それを買いにいこうと思って」
「そんなの召使にさせればいいのに、お嬢様なんだから」
私は笑って、答える。
「好きでお嬢様になったわけじゃないわ」