薔薇の欠片


軽いめまいが起きた気がした。



「憂、覚えてる?」



母は私を手招きでよんで、私の手を握った。


悪い予感がしてならない。



「“おやすみ”って言葉は

“また明日の朝会いましょう”
って言う意味だってこと」



覚えてる。


私がまだ小さい頃だったときに母が話してくれていた。




だけど、なぜそれを今言うの?



「だけど明日の朝、

私は憂に“おはよう”って言えるかしら」


「…」



ごめんなさい。

口に出してはいえないから、心の中で呟く。


父と母は私に穏やかに微笑んで言う。



「おやすみ」



私は無理矢理につくった笑顔で答える。



「おやすみなさい」



言い終わると、私はすぐに階段を上がって自分の部屋に入った。



部屋の電気は点けない。


私に光はもういらない。



部屋の窓をゆっくりと開ける。



「玲さん」



まだ、返事はない。



「来て……」



小さい声で、彼を呼ぶ。


私は窓に肘をつけて頭を下げる。


どんどん小さい声になっていく。



「早く……」



貴方の姿を見たらこんな不安、吹き飛んでしまうと思うから。


だから、早く来て。


「どうして」


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