薔薇の欠片
「……連れていって」
私は玲さんの袖を摘まんで言った。
玲さんは何も言わずに私を抱える。
「行かないで!」
「母さん……っ」
わああっと、
母の泣き叫ぶ声が痛いほどに聞こえる。
だけど、ごめんね。
もう戻れない。
玲さんは私を抱えたまま、ふわりと宙に浮く。
少し驚いたけど、すぐに理解した。
彼は吸血鬼。
空だって、飛べることができる。
母の泣き叫ぶ声が遠くなる。
耳をふさぎたくなった。
私は玲さんにしがみついたまま、
顔をうつむかせて小さな声で独り言のように言った。