薔薇の欠片
おやすみなさいのキスを
夢をみた。
あのときみたいな、夢。
檻の中から救い出してくれたのは、
紛れもなく彼だった。
吸血鬼。
握られた手のひらからは体温は感じられなかった。
だけど、
私の体が熱くなっていくのがわかる。
ずっと待ち望んでいた。
貴方に連れ出されることを。
私の手を引く彼が途中でピタリと止まる。
限りなく白い世界。
邪魔なものは無く、見えるのは彼と白の世界だけ。
何も言わず振り向く彼。
銀色の瞳に見つめられた私は動くことができなかった。
そんな私を彼がそっと抱きしめる。
耳元でそっと囁かれた言葉。
「憂」
いつもは“さん”付けの私の名前を呼ぶ。
私はただ、頷くだけだ。
「僕のこと、好き?」
小さな子供が甘えるような声で訊ねる彼。
そんな台詞が、あまりにも現実とかけ離れていたせいか、私はすぐには答えることができなかった。