薔薇の欠片
夢に出てきた人と同じだ。
髪も瞳も銀色ではないが、そう思えてきて仕方がない。
「大丈夫ですか?」
心配そうに訊ねる彼。
私は我に返って、あわててその人から離れる。
「あ、ごめんなさい!」
そうして、彼はくすくす笑う。
馬鹿にされているのか、それとも別の理由があるのか、
それがわからずに私は彼に訊ねた。
「どうして、笑ってるんですか?」
彼は優しく微笑んだ。
「いや、可愛らしいなと思ったものですから」
その台詞を聞いたとたん顔が熱くなるのがわかった。
そんなこと、今までに言われたことがなかったからだ。
「からかわないでください……」
「本当のことですよ、憂さん」
そうして、私の名前を呼ぶ彼。
「どうして、私の名前を?」
「貴方の名前を知らない者はこの街で一人もいませんよ」
少しの嫌気が差した。
親が企業の代表をしている娘だというだけで、名前も知らない者はいないなんて。
黙ったままの私を見て、
彼は私の手をとって一つのボトルをのせる。
「それに、貴方のように美しい方は他にはいらっしゃいません」