薔薇の欠片
手の平にのせられたボトルは私が求めていた香水だった。
「えっ、あのこれ……」
「僕には必要のないものになってしまったので」
「でも……」
「それでは、またお会いできるといいですね」
そう言い残して彼は私に背を向けて立ち去ろうとした。
私は思い切って彼のジャケットを軽く引っ張った。
彼は何だろうと言う顔で振り返った。
「あの……お名前は……」
彼は目を軽く細めて言った。
「玲(レイ)、と申します」
「玲、さん……」
「はい」
名前を知れただけで嬉しかった。
そして立ち去っていく後姿を見るだけで、胸の鼓動がトクンと跳ねる。
彼がくれた香水を見る。
これは、一生の宝物だと思った。
新作だから、
貴重な限定品だから、とかそんな理由じゃない。
これは、彼がくれたプレゼントだから、
大切だと思ったんだ。