薔薇の欠片
連れ出された先は、岬だった。
私の手を放し、高藤さんは背を向けたまま言った。
「本当に、何も覚えていないんですか?」
彼の言葉に私は驚いた。
「どうしてそのこと……母から訊いたんですか……?」
「訊かなくてもわかる」
「どうして?」
高藤さんは振り返ると、苦しさと優しさがごちゃ混ぜになった顔をしていた。
ズキン、と頭が痛む。
知ってる。
私は、
そんな顔をした人を知っている。
「貴方らしくないからです」
私は眉にしわを寄せ、訊き返した。
「私らしくない……?」
「つまらなさそうな顔をしている。
……婚約者がこんなことを言ってはいけないかもしれない。
けど、僕は負けました。
彼みたいに貴方を幸せにすることができなかった」
寂しさを含んで彼はそういうと、2つ折にされた写真を手のひらに握らされた。