薔薇の欠片
足りない。
貴方が、足りない。
考えても、考えてもわからない。
……どうして?
私の中にある記憶が、
まるで他人のように感じる。
触れたい、
触れられたい、
貴方に抱きつきたい。
そう思う気持ちは確かだけど、ない。
何かが、ないの。
「憂」
私が振り返ると、
ドアを開けて立っていた母がいた。
「何を考えていたの?」
冷静に言う母の言葉が苦しい。
私は首を振って、無理をしてつくった笑顔を見せた。
「いいえ、何も」
母はそう、と言い続けた。