BEST FRIEND
気付くと足が震えていた。近くの交差点の信号待ちで携帯を出した。
「もしもし。高谷さん。本田さんて人が来たんだけど」
「えっ」高谷さんは驚いた声を出した。「まいったなぁ…。会社のバイトの子で相談にのってたら一回だけややこしいことになって」高谷さんは一回だけを強調した。
「とりあえず迎えにいって」私は冷静な声を出した。
「ああ。美香、悪かったな。」彼は疲れたように呟いた。
電話を切ってから、気付くと頬が濡れていた。
彼女のように自分の気持ちのままにぶつかっていこうかと昔、考えたことがある。でも、その時そのままぶつかれば玉砕したはずだ。高谷さんは愛人が持てるタイプの人ではない。育ちの良さからくる潔癖さを持っていてそこが好ましいのだ。高谷の言った一回は嘘でもあの彼女との関係は長くはないだろう。
 私は友達でいることを選んだ。正直にならない方が誰も傷つけない。今の恋人のことが好きだし、彼も妻がいるしこれでいいはずだ。
だけど、つかず離れず続いていく関係はもしかしたらずるいのだろうか?
私は携帯の登録画面で『高谷』の登録を呼び出した。削除のボタンを押そうかどうか、いつまでも答えはでなかった。
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