美香
 池袋の改札口で九時から出勤する翔太を見送る。
喫茶店で一人残ったりする別れは嫌だった。
いつものように、きちんとさよならがしたかった。
いつものように、改札口を入って行く翔太に切なげに手を振れば、
何事もなかったような顔をして踵を返すことができる。
そう、いつものように。
たった今切なかったことなどすっかり忘れて歩き出す、
あのいつもの朝のように・・。

 何度も問いかけるような眼差しで振り返りながら、
見えなくなった翔太を、
最後までちゃんと切なげに見送り、
美香は逆方向へ歩き始めた。
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