コンビニラブ
エレベーターに乗って間もなく、
光りが数字の“1”を照らした。


扉が開き、
足を一歩踏み出した由衣の前に、
一人の女性が立ちはだかる。


「あ、すみません。」

「すみません、ども。」


その女性は、由衣と入れ違いでエレベーターへと乗り込んだ。


扉が閉まる瞬間、
由衣が振り返ると
その女性は、伏し目がちに姿を消していった。


その様子が気になった由衣は、
その女性が何階まで行くのか、
そのまま、数字を見上げる。


2、3、4…

伸治の住む階は過ぎていった。


「あ、吉野さんと同じ階…か…」


そして、吉野が言った言葉が頭を過っていく。


〜妹みたいな、可愛い子だよ…仲は良いよ…君とつきあう前から〜


蹴散らすように頭を振り、
ゆっくりと外へと出た由衣は、
ガラスの外から、レジの中に居る伸治を見つめた。


気がついた伸治は、キョロキョロとまわりを見渡すと、
姿が見える様に身を乗り出しては

「き・を・つ・け・て」

と、口を大きくゆっくりうごかし、由衣にメッセージをおくっていた。


(この人が、あたしと誰かを二股かけるなんて…そんな器用なこと、できる人じゃないよね。あの馬鹿バイトめ!)

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