コンビニラブ
考えてみれば、
マンションの住民と、挨拶以外で(それすらしない方がほとんどだが)会話したのは初めてだった。


一人暮らしをはじめてから、ワンパターン化していた日常に、少しだけ変化があったことが、ちょっぴり嬉しく思えた。


名前は聞かなかったが、オーナーの親戚の子のことは、なんとなく、店で見かけた覚えがある顔だった。


それに、生モデルにも逢ったことだし!


あとから気が付いたにしても、
東京には、芸能人がウヨウヨしていると信じていた伸治にとって、はじめての遭遇で、唯一の自慢話となった。


バイト中、棚出しをしながら、例の雑誌の表紙が目に入る度、

(話だってしたんだもんなぁ。)

と、すっかり浮かれているが、

あくまでも、ただの客と店員だ。


最近、コンクリートジャングルと言う言葉を実感しつつあった伸治のまわりを、
久しぶりに、新鮮な風が吹いた気がした。


「えー。ソレ違うんじゃね?同じような化粧すれば、似て見えるもんだぜ!」

友達は誰も信じない。


「だってさ、そしたらさ、そのモデルの住んでるとこと、おまえん家が、すっげ〜近いってことだぞ!」


確かにそうだった。


(だとしたら、あれから、まだ一度も見かけないのはおかしいかぁ…?)


いっきに気持ちがめげていった。
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