着せ替え人形


真剣な目をして彼は続けた。


「よく言われることだけど…大事なこととか、本質とかっていうのは…言葉にしちゃいけないんだ。

形を得た瞬間に、違うものになってしまうから。


だから、俺は言葉無しで大事な奈津子と触れ合える撮影の時間が好きだよ。

表情とポーズだけであそこまで感情を表現できる君はすごいと思う。

できたら…それを汲み取ろうと努めた俺のことも認めてほしいけど。

君は不安に思ってるのかもしれないけど、俺にとってはセックスもその類の行為で…
順序がおかしいのはわかってるけど、
君のことが気になって知りたかったんだから、手出ししたことは許してほしい」


こんなに真面目に言われたら、これ以上疑う理由なんてないよね。


「…わかりました。

でも…不安になるから好きって言ってほしい。

一ノ瀬さんに愛されてるって、ちゃんと実感したいんです。

長たらしい形容詞なんていらないから、ただ好きって言われたいです。

そしたら…その言葉の後ろにある思いを、ちゃんと受け取りますから」


自分の思いをバカがつくぐらい正直に伝えたら、なんだか恥ずかしくなって…
一ノ瀬さんの目もまともに見れなくなった。


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