着せ替え人形
「…俺ですよ。
お前、まだ引きずってるの?」
「いや…でも何か形にしておきたくて、今回これを書いたんです」
「ふーん。
じゃあ…いいよ。
彼女に言って許可が降りればだけどな」
…つくづく押しに弱いな、俺。
電話ごしにため息をついた。
「さすが先輩!
ありがとうございまーす」
「まだ決まったわけじゃ…」
全てを言い終わる前に電話は切れていた。
何でこんな奴が売れる小説を書けるんだろう…なんて黒いことを考えてしまう。
その後すぐに奈津子に電話をしたら、ためらう様子もなく了承されてしまった。
プライベートには触れないでほしいとか無いのか、普通。
あー…彼女って、そういう感覚鈍そうだ。
…俺があれだけのことしても、顔色変えずに平然としているんだもんなぁ。
落ち着いてるっていうよりもむしろ鈍感だな、鈍感。
…そもそも、俺は何でここまで嫌がってるんだろう。
彼女がいいなら何も問題ないはずなのに。
その時からずっと気分が晴れないまま今に至るってわけだ。