着せ替え人形
「いつになったら暖かくなるんでしょうね」
ふと、手を寒そうにさすりながら彼女がそんなことをつぶやいた。
確かに、まだ冬と言っていいくらいに風は鋭くて…
道のわきに植えてある桜の木に目をやっても、開花まではまだ遠いと言っている。
「桜もまだ咲きそうにないしなぁ」
「桜…」
その言葉が気になったのだろうか。
「私…一ノ瀬さんに桜の下で写真を撮ってもらいたいな」
急に彼女はそんな提案をしてきた。
「桜の下ね…よくありそうな画だけど」
彼女との撮影の楽しみのひとつなのに、外で撮るんじゃ手出し出来ないじゃないか。
「ベタなのがいいんです!」
俺のささやかな抵抗も無意味のようだ。
彼女の意志は強いらしい。