着せ替え人形


「…もしもし」


数回呼び出し音が鳴ったあと、少し疲れた彼の声がした。
数日ぶりに聞く声に、少しだけ涙が出そうになる。


「あ…あのっ」


胸がいっぱいで言葉が出てこない。
ただの業務連絡のつもりだったのに、
いざ声を聞いたら、いらないことまで言ってしまいたくなる。


「…どうしたの?」


しばらく黙っていると、優しい声で彼が尋ねた。


「あの…この間一ノ瀬さんが最後に言ったことはとりあえず抜きにして、例の約束の写真をお願いしてもいいですか?」


少し声が震えたのは、電話ごしでも気付かれてしまっただろうか。
でもこの状況で言葉を発したこと自体が、今の私にとっては奇跡的だ。


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