着せ替え人形
3月30日
翌日
22:00
決戦の日がやってきた。
私は今、一ノ瀬さんの家の前に立ち尽くしている。
着るものも化粧品もつめたら、カバンは予想以上に大きくなってしまった。
すっぴんでコートにジーンズと、かなりゆるいファッションだけど気にしない。
後で化けるんだから。
深呼吸をしてインターホンを押す。
それに答えることなく、彼はドアを開いた。
そして私を見て目を大きくした。
「…化粧の力って怖いな」
第一声がそれってひどくないか。
「すっぴんで来いって言ったのは一ノ瀬さんじゃないですか」
そう言うと彼は笑ってくれた。
「いや、意外と童顔なんだなって思っただけだよ。
じゃあ行くか」
「行く?」
「さすがに家の中に桜は用意できないだろ?」
いや、そうですけど。
ほら、着替える場所とか…
そんなことを言う暇も与えずに、器材を持った彼は、家の駐車場にある外車の助手席のドアを開いた。
「はい、乗って乗って」
つべこべ言っても無駄だろう。
仕方なく私は皮のシートに滑り込んだ。