着せ替え人形


「奈津子のことを人形だなんて、思ったことも無いけど」


極力落ち着いた声でそう言った。


「一ノ瀬さんの選んだ服を着て、撮影したら脱がされて、最後には抱かれて…これじゃ着せ替え人形と同じですよ」


彼女の声が震えていた。
顔を覗き込むと、今にも涙がこぼれそうになっている。


それを見てしまったら、無意識のうちに彼女の頬に手をあてていた。


「ほら、またこうやって優しくするんだもん」


ついに涙がこぼれた。


指でその粒をすくい取る。

「そんな辛い思いさせてたなんて知らなかった…ごめんね」


こんな時に不謹慎だが、泣き顔も悪くないななんて思ってしまう。

彼女が許可さえくれれば写真にしておきたいくらいだ。


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