着せ替え人形
「一ノ瀬さんが泣かせたせいで化粧が崩れちゃったじゃないですか」
少し恥ずかしそうに彼女が言った。
「君が勝手に泣いたんだろ」
冗談で冷たく返すと、彼女は悲しみに打ち拉がれていた。
あまりにもその顔が真剣だから思わず笑ってしまった。
「嘘だよ。
その顔じゃ撮影もできないし、帰るか」
もう少しこのままでいたい気もしたけど、思い切って立ち上がった。
気持ちのいい風が体を包む。
後ろを振り返ると、彼女も同じように寂しそうに笑っていた。
「そうですね」
時刻はもうすぐ真夜中3時を回ろうとしていた。