いわし雲のように【SS集】
“ゆうき”にとってそれは初めてのことではなかった。
名前のせいでもあるかもしれないし、どっちつかずのこの中性的な声のせいでもあるかもしれない。
身長だって高いとも低いともいえず顔にしてもまじまじと見つめられてようやく気付かれるくらいだ。
自分としてははっきりと性別に準じた立ち振舞いをしているつもりなのに、どうしてこうも間違われるのだろう。
もはや悲しみを通り越して自分自身に苛立たしささえ覚える。
いっそこの世に服などというものがなければいいのにとも思うが、だからといって裸で出歩いて警察に通報されるのは……。
すっかり冷めきったローズヒップティに口をつける。
芳醇な味わいはとうに失われ、舌の上に広がったのはただただ渋い、本来あるべき姿とはかけはなれた味でしかなかった。
まるで自分のようだ。
そう“ゆうき”は感じ、眉間にシワを寄せながらそれでも流しに捨ててしまうことなど出来ず、一気に飲み干す。
そうでもしなければ自分自身の存在そのものを否定してしまいそうで。