§Cherish§

「……放られたの。」

私の無感情な呟きに、各務君の
足が止まる。

「恋人に振られたの、私。」
『……ごめん、先生。』
「どうせだから聞いてよ。」

各務君は、無言で歩き出して、
私は、彼の背中に語りかけた。


私が教職の夢を諦め切れずに、
会社を辞めたこと。

付き合って3年になる恋人に、
“俺との将来を考えていない”
と振られてしまったこと。

そんなつもりじゃなかった。
どちらかなんて選べなかった。

それは悪いことなんだろうか。


誰かに吐き出したかったんだ。
誰かに聞いて欲しかったんだ。

『先生は…悪くないよ。ただ
 彼と合わなかっただけだ。
 だから、もう泣くなよ……』

各務君は、再び足を止めると、
私を塀に凭れるように下ろす。

「…各務君?」

各務君は何も言わずに、私の
唇に、そっと唇を重ねた。
< 13 / 26 >

この作品をシェア

pagetop