§Cherish§
「……放られたの。」
私の無感情な呟きに、各務君の
足が止まる。
「恋人に振られたの、私。」
『……ごめん、先生。』
「どうせだから聞いてよ。」
各務君は、無言で歩き出して、
私は、彼の背中に語りかけた。
私が教職の夢を諦め切れずに、
会社を辞めたこと。
付き合って3年になる恋人に、
“俺との将来を考えていない”
と振られてしまったこと。
そんなつもりじゃなかった。
どちらかなんて選べなかった。
それは悪いことなんだろうか。
誰かに吐き出したかったんだ。
誰かに聞いて欲しかったんだ。
『先生は…悪くないよ。ただ
彼と合わなかっただけだ。
だから、もう泣くなよ……』
各務君は、再び足を止めると、
私を塀に凭れるように下ろす。
「…各務君?」
各務君は何も言わずに、私の
唇に、そっと唇を重ねた。