§Cherish§
§Cherish§ #2
ひととおり荷物を解き終わり、
窓から中庭を見渡してみると、
ここから程近い木立の辺りに
人だかりが見える。
どうやらギターの弾き語りを
している男子がいるらしい。
町田教授との調整も済んだし、
講義の準備をして部屋を出て、
人だかりの方へ行ってみる。
すると、弾き語りをしている
のは……今朝の彼だった…。
話していた時とは違う、少し
ハスキーで艶のある声。
バラードだからか、切なげな、
憂いのある表情。
何だか、七不思議を見ている
気分だわ…。
──────────────
予鈴が鳴ると同時に入室。
教壇に立ち、テキストを確認
していると、
『あ~っ!アンタ…』
という叫び声が教室に響く。
慌てて顔を上げると、そこに、
朝の彼の姿があった。
それこそ、不思議なものでも
見るような顔。
私が苦笑いで片手を上げると、
彼は口をパクつかせて、頭を
掻いている。
出欠を取ることで、彼の名が
分かる──“各務 遼太郎”。
各務君、
お蔭で緊張が解けました。(笑)
その後、何事もなかったかの
様に講義は進んで、初めての
講義は平穏無事に終わった。
……と、私は思っていた。