『勧善懲彼(かんぜんちょうかれ)迷惑な俺様彼氏』
花音に呼びかけられなければ、
我が家を通り過ぎて、
どこまでもまっすぐ進んでいたみたい。
ユカリさんが来たとたん、
陸渡は私と花音に『帰れ』ってぴしゃりと言った。
口を挟めない空気が流れていて、
私はまだ少し濡れているTシャツを袋に入れ、
陸渡のだぼだぼシャツを着たまま家に帰ることになって。
「元気出して?」
「へっ?
やだ、花音ったら、何言ってるの!
私は陸渡のことなんて何とも思ってないんだから、
元気出すも何もないってば」
私は、懸命に笑って見せた。
“懸命”に笑うってことが、
すでにおかしいってことに、
気づきたくない私がいて。