◆LOVERS◆ 大人の恋の短編集
LOVERSⅠ この歌が終わったら
**LOVERSⅠ** この歌が終わったら
ヘッドライトを消して窓を開けると、あなたはエンジンを止めてカーステレオの音だけを残した。
夏の夜の生ぬるい風が開け放った窓から流れ込み、二人の間を舐めるように吹き抜けていく。
エンジンを消した車内は静かで、あなたの好きなボーカルの歌声だけがやけに大きく聴こえる。
やがて曲が変わり、お気に入りの曲が流れると、あなたは瞳を伏せて聴き入った。
別れの曲の切ないメロディが、開け放った車の窓から夏の夜空に流れ出し、闇夜へと消えていく。
『もうあなたの隣で微笑むのは私じゃない』
哀しい歌詞に目を閉じて聴き入るあなたの横顔は、蒼白い月の光に照らされ、まるで初めて見る男性(ひと)のように冷たくて…
すぐ隣にいるあなたとの距離感に孤独を感じる。
歌詞と重なる私達の未来に、胸が抉られるようだった。
わかっているわ…
この歌が終わったら、きっとあなたは告げるのでしょう?
私たちの恋の終わりの時を。