◆LOVERS◆ 大人の恋の短編集
街から少し離れたこの場所からは星と夜景がよく見える。
この丘を下った先にある私の家までは歩いても10分余りの距離で、デートの帰り道はいつも門限ギリギリまでこの場所で過ごした。
『門限を破ったらまた怒られちゃうね』と言いながらも、少しでも長く一緒にいたくて、家々の灯りが星のように闇に煌くのをいつまでも寄り添って見つめていた。
門限10分前になると、名残惜しげに重ねられる唇。
熱を帯びた唇はいつだって甘い夢を見せてくれた。
耳元に囁かれた愛の言葉の数々は、今も思い出すだけで体の芯が熱くなる。
それなのに、今夜私を抱いた腕は冷たくて、まるで義務のように重なる唇にも、触れる肌にも、熱を感じることはなかった。
私を抱きながらも、心はもう、他の誰かに向かっている。
薄々気付いていたけれど認めたくなかった事実を突きつけられ…心が痛かった。
あなたの好きな別れの曲が終わるまで、あと少し。
『好きだったよ』と歌う切ない声が、私の心に添うように流れ空へと消えてゆく。
やがて歌が終わり、静かな余韻が辺りを包んだとき、あなたは躊躇いがちに私の名を呼んだ。
迷いが揺らぐ瞳。
あなたが私を捨てるはずなのに、まるであなたが捨てられるような顔をするのね。
どうしてそんなに苦しげな顔をするの?