◆LOVERS◆ 大人の恋の短編集
「高畑君は、茜とお付き合いをしているんだよね。
茜はとても幸せそうだったよ。
毎日私がやきもちをやく位、君の話を聞かされてね。
毎日が生きているって感じがするって言っていた。
あんなに幸せそうな茜を見るのは、今までで初めてだったよ」
足元にこぼれたグラスの中身が、フローリングの溝に導かれるように伝って流れていくのを、ボンヤリと目で追った。
「茜は…治るんですよね?」
声が震えているのは分かっていたけれど、止める事なんて出来なかった。
声だけじゃない。体中がガクガクと震えて、コントロールが利かない。
必死に力を入れて震えを抑えながら、次の言葉を待っていた。
心のどこかでウソであって欲しいと、願いながら…。
お父さんの辛そうな表情が、俺のわずかな希望を摘み取るのが分かったけれど、心がそれを受け入れられなかった。
「茜は…もう、長くはないんだよ。学校にも多分もう戻れない」