◆LOVERS◆ 大人の恋の短編集
病院で意識が戻っても、俺の世界はずっと暗いままだった。
俺は事故の後遺症とかで、まだ目が見えないでいる。
目が不自由なのは困るけれど、茜と同じ病院に入院できた事は喜んでいいことなのかもしれない。
俺は暇さえあれば茜の病室へ行き手を握って語りかけた。
茜の顔を見ることが出来ないのはつらいけど、手に、顔に直接触れ、茜の様子を毎日感じている。
随分と痩せてしまったんだな。
俺が入院してから1ヶ月。秋はすっかり深くなっている。
茜、俺の目が回復したらお前の顔を一番に見たいよ。
そっと頬を指でなぞり、柔らかい唇の位置を確かめると、指の位置を頼りにゆっくりと茜に唇を寄せた。
触れた唇から…あきら…と呼ばれたような気がした。
哀しい甘い唇だった。